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2008年08月21日:アニメ制作あれこれ・HD時代のラッシュチェック

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夏期休暇を利用して弊社保養所のある軽井沢に行って来ました.趣味の自転車で軽井沢まで行くのがここ数年の恒例行事になっていたのですが,今回は出発日に仕事が入ってしまって夜出発に.東京〜軽井沢間の難所は旧道・碓氷峠なのですが,深夜の碓氷峠は街灯はほとんど無いわ峠を攻めるのが趣味な方々の車が猛スピードで下ってくるわで,さすがに峠越えは断念してタクシーに自転車を積んでもらって軽井沢まで運んでもらうという,よく考えてみれば非常に無意味な道行でした.
加えて,先に車で現地入りしていたスタッフ数人と合流後,朝まで宴会.某演出氏とキャラクターデザイナー氏が取っ組み合いの喧嘩になりそうになる様子を肴に大笑いしながら酒を飲むという,これまた非常によくわからないイベントという...わざわざ疲れに行っただけじゃないのか?


さて,今回はラッシュ・チェックに関する話を.

アニメーション業界においてラッシュ・チェックとは,撮影や編集の終わった映像に不備があるかどうか,スタッフが集まって試写を行う事を言います.ラッシュ試写とかリテイク出し,なんて呼ばれたりもしています.
様々な工程の存在する集団作業であるアニメーション制作においては工程の数だけチェックが存在します.脚本をチェックする本読み合わせに始まり,絵コンテ・チェック,レイアウト・チェック,原画チェック,動画検査,仕上検査などなど.そして撮影後や編集後の映像をチェックするのがラッシュ・チェックになります.

元々ラッシュとはラッシュ・プリントの略語で,撮影済みネガ・フィルムから複製されたポジ・フィルム(リバーサル・フィルム)をこう呼んでいました.撮影されたそのままの状態なので当然未編集のままの状態を指しているので編集済みのフィルムに関しては本来ラッシュと呼ばないのですが,どういうわけか撮影後・編集後の映像をチェックする事をまとめてラッシュ・チェックと呼んでいます.
以前は16mmフィルムを映写機でスクリーンに投影していたラッシュ・チェックですが,デジタル・ビデオで制作されるようになり映像をテレビモニタで確認する様になった現在でもラッシュ・チェックと呼ばれている辺り,この業界のいい加減なところです.

一口に撮影や編集の終わった映像と言っても実際は様々な形態があります.デジタル撮影を終えたイメージシーケンス(静止画連番)もしくはQuickTimeなどのムービーは非圧縮形式なので最高画質で,それをDigital BETACAMやHDCAMといった放送用VTRへ収録したものは1/2〜1/7程度に圧縮がかかりますが高画質を保持します.実際はこの放送用VTRの形式で放送局へ納品されます.

この状態でチェックを行う事が理想的ではあるのですが,現実問題としてこれらは高画質である半面,扱いが困難であったり再生機器が高額(数百万〜数千万円)である為,安易に導入することが出来ません.というのも完成映像のチェックはスタッフが一同に揃う場面以外でも,個々のスタッフが何か作業をしていてふと映像を確認する様なケースや,他所のスタジオなどへ確認用に映像素材を送付するようなケースを想定しなければならない為,出来るだけ簡単に扱えてどこでも再生可能な一般的な形式が望ましいからです.
その為,最終的に納品する素材をチェックしたりスタッフが一同に会してチェックを行う様な要所では非圧縮形式や放送用VTRの形式で,それ以外のケースでは手軽に扱える民生用のVHSやDVDで,と使い分けが行われてきました.

高画質な非圧縮形式でノイズや細かい部分をシビアにチェックするのと,動画のミスや色の塗り間違え,お話の流れなどをチェックするのとでは,性格や目的が異なります.誰が見ても判る様な単純なミスは画質にはそれほど依存しません.また,DVDの登場によりVHSと比較して格段の画質向上と,放送用VTRと比較してさほど遜色のない画質を得る事が出来るようになり,実際この使い分けは上手く機能しました.

ところが,アナログ放送停波を目前に控え地上デジタル放送が一般的になりつつあり,且つブルーレイ・ディスクでのリリースも視野に入れてのHD制作が基本になった現在,SDフォーマットであるDVDやVHSではたとえ簡易とは言えチェックの体を成さない状況になりつつあります.SDではHDの解像度を再現出来ない事は地上デジタル放送をご覧の皆様にはお判り頂ける事と思います.画質はともかくSDとHDの解像度の差は如何ともし難いものがあり,必然的にHD解像度でのチェックが増え,結果的にSD時代の様な手軽さは無くなってしまいました.

問題はHD解像度を保持したまま記録可能な民生用録画機器がほぼ存在しないという点にあります.著作権や著作隣接権保護の観点から現在一般的に販売されているハードディスク・レコーダーなどの民生用HD録画機器には著作権保護に対応した映像信号しか入力出来ず,映像制作に使用される業務用のSDI信号やコンポーネント信号をHD解像度のまま記録する事が出来ません.著作権保護その物は制作者として歓迎すべき存在なのでしょうが,それが逆に制作の足枷となっていると言うジレンマがあります.(B-CASやコピーワンス,ダビング10など著作権保護に関する日本の放送行政に思う所は多々あるのですが,それはまた別の話)

という訳でHD制作に移行してからというもの,HD解像度での簡易プレビューに関して色々と模索をして来たのですが,数年経った現在でも未だに解決出来ずにいます.可能性のあるのが家庭向けビデオカメラでも主流のHDV形式で,これはコンバータを間に入れれば業務用の映像信号でもHD解像度のまま記録出来るし,扱いも簡単なので簡易プレビューに関して理想的ではあるのですが,コンバータが高価なのと再生環境が一般的とは言い難い点で二の足を踏んでいます.コンピュータ上でのMPEG2へのエンコード速度が実用的になってきているので,社内に限ってはHD解像度のMPEG2ムービーに変換してPlayStation3上で再生させたりもしているのですが,デジタルデータのまま他所に配布する事に対しては躊躇している状況です.

事程左様に,HD映像制作におけるプレビュー問題は著作権保護の問題も絡み,アニメーション業界のみならず映像業界全体として頭の痛い問題です.とりあえず現時点での最適解はMPEG2にエンコードしてブルーレイディスクに記録する事でしょうか.まだDVD程簡単に作成する事は出来ないのと,再生環境の普及がこれからという点で問題はあるのですが,HDDVDの撤退により規格が一本化された点と,コンピュータの速度やディスク作成環境がここ1,2年で整備されつつある点でなんとか実用的になりつつあります.


何か技術屋の愚痴みたくなってしまいましたが,今回はこの辺で...
ラッシュ・チェックにはもう一つ大きな問題があるのですが,それはまた次回.

2008年08月06日:アニメ制作あれこれ・スポッティング編

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現在制作中の「無限の住人」最終話ですが,制作中の映像をチェックした監督が音響作業のやり直しを宣言.どうもラストの音楽の入り方に納得いかなくなったようで.(以前に書きましたが選曲は監督自身が行っています)6月に終わった筈なのにいまさら...


というわけで,音楽つながりで今回は「スポッティング」の話を.

アニメーション業界においてのスポッティング作業とは,音楽と映像を同期させる為に,音楽のタイミングをタイムシートに記録していく作業をさします.この歌詞の歌い出しは何秒何コマ目から,とか,ここのギターは何秒何コマ目から何秒間,みたいな感じで1コマ(1/24秒)単位で記録していきます.

楽曲の譜面やミックス前のDAWデータがあれば歌い出しやギターの出が何秒目かなどすぐに判るのですが,ほとんどの場合ミックス後の楽曲をCDや音声データでポンと渡されるだけ(プロフェッショナルであれば当然と言えますが)なので,ある意味原始的なこの作業が必要になる訳です.

以前はCDやMDを再生しながらプレイヤーのタイムカウンタを読んだり,さらに昔はオープンリールの6ミリ磁気テープやシネテープを再生しながらダーマトグラフ(色鉛筆的なもの)でテープに直接書き込みながら記録していましたが,御多分に洩れず最近は波形編集ソフトウェアを使用することで誰でも簡単に作業を行える様になりました.(オープンリールのテープは一定箇所の物理的な長さを測れば再生時間に変換出来るし,スロー再生等も手作業でリールを回す事でかなり自由に行えたので,そういう意味では波形編集ソフトウェアより直感的で判りやすかったと言えますが,今や録音再生出来る機材もなかなかありませんので...)

いずれにせよ,作業環境が変わろうとも何度も繰り返し楽曲を聴きながら記録していく作業そのものは変わりません.アニメーション業界では前述の必要機材の関係上,編集スタッフがスポッティング作業を行うケースが多い様ですが,波形編集ソフトウェアの登場以降弊社の場合は主に担当演出が行っています.これは,担当演出も絵コンテ作業に入る前に楽曲を聴き込む必要がある為,どうせならスポッティングもまとめてやった方が楽曲の構造を細かく分析出来るだろうという理由と,編集の私があまり仕事をしたくないという理由に依ります.主に後者.

というわけで私自身最近はスポッティング作業を行う事はなかったんですが,たまたま他社の作品の編集を担当する事になった関係でここ最近何度かスポッティングを行ったので,ついでにこちらに書いておきます.業界として特に正式な作業方法も決まってないので,今回行った私独自の作業の流れですが.


・環境
映像同期が目的なので,使用する波形編集ソフトウェアはタイムカウンタを1/30秒や1/24秒単位で表示出来る物を使用すると作業しやすいです.多くのソフトウェアは映像制作を考慮に入れて設計されていないので,1/100秒とか1/1000秒単位,あるいはサンプリング周波数単位だったりしてスポッティングで使用するには変換がやっかいです.特に1/24秒で表示できるソフトウェアはかなり少ないかなぁ.私の場合は映像制作用に特化されているAppleのSoundtrackProを使用しています.

・事前準備1 フォーマットに合わせる
オープニングなど多くの場合は映像の長さが予め決まっています.また放送などでは楽曲の前後に無音部分の挿入が必要な場合が多いので,完成した楽曲のデータを指定されたフォーマットに合わせて整える必要があります.

・事前準備2 小節単位を分析
フォーマットに合わせた楽曲でそのまま作業してもいいのですが,多くの場合楽曲は小節で分割されていますのでスポッティングもそちらに倣った方が作業上かなり楽です.私の場合は楽曲のBPM(テンポ)を測定して,そのクリック音(メトロノーム的な音)を生成し楽曲とミックスする事で小節管理をしています.波形上に目盛りを打つ感じです.

・スポッティング1 分析と選別
実際のスポッティング作業ですが,スポッティングは採譜とは違うので細かくドレミを記入すればいいという物ではありません.映像と音楽を同期させる場合,歌詞の一部分や特徴的な楽器の音と合わせる場合が多い為,ある程度絵コンテなり演出を行う立場に立って必要な事項を取捨選択する必要があります.(そういう意味でも上で述べた様に担当演出が行う方が効率的な場合が多い)多くの場合スポッティングを行う楽曲はインストゥルメントではなく歌モノなので,とりあえず全ての歌詞の位置と,ドラムの出やギターのリフなど特徴的な器楽部分が判ればスポッティングとして成立します.例外的に楽器を演奏する場面などを作画する場合,それこそ音符のレベルで細かくスポッティングと運指の作画を行う必要がありますが,まぁ,正直あまりやりたくはないですね...

・スポッティング2 タイムシート記入
実際は上と同時並行的に行う事になりますがタイムシートに記入します.前述した様にアニメーションは多くの場合1/24秒単位で制作されるので,記入も1/24秒単位になります.今回は他社の仕事なので,とりあえず丁寧に書かなければならなかったのと,かと言ってきちんと清書するのもめんどくさかったので,紙を一切使用せずにOpenOffice Calc(Excel的なソフトウェア)で記入した内容をAdobe illustratorに流し込むスクリプトを作成して,そのままPDFデータで納品する形を採りましたが,特に決まった書式もないので他人が読んで理解出来る様に記入すればいいと思います.自分で使う場合には殴り書きでもいいんじゃないでしょうか.


...というわけで,巷で放映されているアニメーション作品のオープニングやエンディングなどでは多かれ少なかれこのような作業が行われた上で絵コンテの作成や作画が行われ,出来上がった映像と楽曲を最終的に編集の段階でさらに細かく同期させる感じで作られています.

以上,長文の割には視聴者の皆様の生活に役立つとはとても思えない内容ですが.今回はこの辺で.

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